胡瓜のこと



 NHKのテレビ番組「鶴瓶の家族に乾杯」を観ていたら、ハウスの中で、笑福亭鶴瓶が胡瓜をもぎとり、上着の裾で棘のある表面を拭きとってから、ガブリと旨そうに囓るシーンがあった。
この場面を観ていて、遠い記憶がよみがえってきた。
 いつごろまでそうであったかは不明だが、ぼくが子どものころは、胡瓜をそのまま囓るということは、めったにないことであった。その頃の胡瓜は、渋みというか苦味がきつすぎて、そのままでは食べられなかったのである。それでどうしたかというと、胡瓜の両端を1〜2センチほど切り取って、その切り取った部分を本体の切り口に当ててこすり合わせると、水分というか液状のものがにじみ出てくる。その液状のものにまじった渋みを抜きとるという手間をかけてから、胡瓜を食べたのである。ほとんどの食卓でそうであったと思う。
 海に泳ぎに行くときはたびたび、悪童仲間と、露地栽培の胡瓜を失敬した。そして、海の中で、切り口をこすって、渋みを抜きとってから囓ったのであった。
(「WA」49号)