散歩中のこと


散歩中のこと。
ぼくの家は、勾配がかなり急な坂道の近くにある。昨日の日曜日、その坂道を下りていると、50歳代の男性とすれちがった。
すれちがうとき、その男性が「きー ちきてぃ うりみそーりよ(気をつけてお下りなさいよ)」と声をかけて通り過ぎて行った。
坂を下りるとバスの通る道路に出る。
その道路を左に曲がったマンション入り口の階段に、顔見知りのお婆さんが一人、足を投げ出して休んでいた。
このあたりに住んでいる人とは知っているが、どの家だかは知らない。顔を合わせるのは1年ぶりくらいである。
頭を下げて挨拶をすると、お婆さんはぼくがついている杖を指して言った。「うんじゅん うんねーるむん むちゅるぐとぅ なたさやー(あなたも、そんなものを持つようになったのですね)」。
ぼくも応えて言った。「うんじゅん ゆぬむん やみせーさやー(おたくも、同じなんですねー)」
地上すれすれのところ交わされた、ビジネスのでも教育のでも政治のでもない言葉のやりとり。
帰るべきところに帰ってきたという感じであった。
加齢によってしか出会えない体験ではあるが。