サバイバル


昼寝をしていると、隣の部屋から、小学校3年の孫が幼稚園生のその妹に、
悪口の数々を浴びせているのが聞こえた。
「うざい」「きもい」「こっちに近寄らないで」
「あんた、クサイのよ」
聞くに耐えない言葉が、次から次へと飛び出してくる。
ときたま妹が「どうして?」とか、
「もう、いっしょにあそばないの?」と言葉をはさむのだが、
ピシャッとはねつけられる。
「さからうつもりなの」
「あなた、なにさまのつもり」。
不思議なのは、こんなにまで言われると、ふつうなら泣き出して、
部屋のすみっことか大人のところに逃げ込むのだが、
そのような気配はない。
おびえたようなか細い声で、反撃らしいことをこころみるが、
妹は姉と向き合ったまま動く様子は感じられない。


このままほっとくわけにはいかないので、注意しようと立ち上がると、
傍らで寝そべって漫画を読んでいた一番上の姉が、
ぼくのズボンの裾をつかまえて、目配せをした。
「いいから、いいから」
「どうして?、妹をあんなにいじめているじゃないか」
「いじめているんじゃないの。きたえているの」
「きたえているって?」
「小学校に入って、いじめられてもだいじょうぶなように、きたえているの」



    遊びをせんとや生まれけむ たはぶれせんとや生まれけん
    遊ぶ子供の声きけば 我が身さえこそゆるがるれ
                         (『梁塵秘抄』)


「遊び」も「たはぶれ」も変質してしまったサバイバル空間を
所与のものとしているらしい孫たちの姿に、
一瞬だが、ぼくは凍り付いた。