戦場の給料


上原正稔が琉球新報の夕刊に断続的に連載している「パンドラの箱を開ける時−沖縄戦の記録」をときどき読んでいる。それの133回(6月6日)にこんな一節がある。


宗貞は「こんなところでなんだが」と百円札を一枚、上間に握らせた。「まだ給料を渡してなかったからね」と言った。実はその百円は宗貞が島田知事から借りたものであったことを上間が知るのは戦後のことだった。


宗貞とは朝日新聞那覇支局長で、上間はその部下の上間正論である。
場所は南部の戦場。
艦砲が炸裂し、照明弾の下をかいくぐりながら、南部戦線を逃げ回っていた宗貞は、現在のひめゆりの塔の近くで、爆弾で足を負傷した上間と再会する。そのときの出来事である。


なんとなくおかしみのあるエピソードだが、同時に、人をして粛然とさせる話でもある。
非日常の中の日常性。